1、事案の概要
複数の土地を所有する顧問先企業より、「賃貸している土地上の建物(マンション1棟)について、不動産競売による譲渡があり、競落人から譲渡許可を求められた」と相談を受けた。
当初はバックオフィスとしてアドバイスを行ったが、当事者間による承諾料の任意交渉はうまくいかず、競落人より譲渡許可を求める借地非訟が申し立てられたタイミングにおいて、代理人として受任することになった。
裁判所における借地非訟手続は1年以上にも及び、主張書面の応酬や和解的交渉を継続したものの解決に至らず、鑑定手続まで進むことになった。
現地調査の上、裁判所による鑑定書が作成され、最終的には、交渉段階で依頼者が希望していた金額を超える承諾料を認める決定を取得できた。
2、ポイントと法的注意点
借地人による経営難等により、金融機関に抵当権を実行され、借地上の建物が競落される場合があります。この場合、建物の所有権は競落人に移転するとともに、借地権も同時に譲渡したことになります。
その場合、競落人は、賃貸人に対して、借地権の譲渡許可を求める必要があります。賃貸人の承諾がない場合、競落とはいえ、無断譲渡となり、賃貸借契約を解除されるリスクがあるからです(民法612条2項)。
実務上、賃貸人から賃借人に対して、上記譲渡許可の代わりとして譲渡承諾料の支払いを求めることが通常であり、当該金額等について賃貸人が納得しない場合には、任意に譲渡許可をしない場合もあります。
その場合、競落人は、借地非訟という裁判上の手続を利用して、譲渡許可を求めることができます(借地借家法20条1項)。なお、競落を理由とする譲渡許可を求める借地非訟の申立ては、建物の代金を支払った後、2ヶ月以内に行わなければなりません(借地借家法20条3項)。
賃貸人から見れば、裁判所の判断として、強制的に譲渡許可が認められてしまう可能性があるということになります。
借地非訟を申し立てられた賃貸人は、承諾料の金額等について鑑定等(鑑定に要する費用は国が負担します)を利用して争っていく方法に加えて(裁判所は裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければなりません。借地借家法20条2項・同19条6項)、借地権を自ら買い取ってしまう方法もあります(介入権。借地借家法20条2項・19条3項)。
他方、競落人においても、賃貸人に対して、建物買取請求権を行使することができるものの(借地借家法14条)、買取価格には借地権が考慮されないため、競売での買取価格を大きく下回ることになるのが通常ですので、経済合理的な選択肢ともいえません。
なお、競売物件の譲渡許可を求める借地非訟においては、既に競売によって譲渡はなされているため、「譲渡許可と引き換えに承諾料を支払え」という引き換え給付の趣旨を含む債務名義は取得できない点には注意が必要です。
そのため、決定の確定によって、既に譲渡許可自体は有効となり、競落人により任意に承諾料が支払われなければ、賃貸人は、別途、強制執行等の法的手続を行うことが必要になります。