1、事案の概要
不動産を複数所有し、企業向けに賃貸業を営む顧問先企業より、不動産の再開発等の関係から、あるテナントに退去依頼をしているが、一向に交渉が進まないとの相談を受けた。
アドバイスとして、賃料増額の意思表示を行い、結果として退去に至るケースがあることを説明したところ、顧問先より相手方に対して、地価等の上昇に伴う賃料増額の意思表示を行ったが、相手方の弁護士より、「むしろ減額されるべき」との回答がなされた。
不動産鑑定士に簡易鑑定を依頼し、賃料増額の査定を得たものの、相手方による頑なな減額主張により交渉は難航したが、調停・訴訟においても粘り強く交渉し、裁判官より当方有利の心証を開示され、相手方の選択肢としては、事実上増額を受け入れるか、退去するかという2択となった。
その後、相手方は退去を決断し、退去時期や敷金の精算等においても紛糾したものの、結果として、数年分の賃料増額分を得た上で、テナントを退去させることもできた。
2、ポイント
テナントの立退交渉は、賃借人保護を重視する法規制(借地借家法等)によって、実務的には非常に紛糾するケースが多いです。
高額な立退費用を支払って、立退きに成功するケースもありますが、今まで受け取ってきた賃料以上の支出をしなければならないこともあります。
また、賃貸人としては、何らかの理由において(上記では再開発)、立ち退きのデットラインが設定されている場合も多く、期限が迫れば迫るほど、テナントからは足元を見られやすく、立退料も高額となりやすいです。
そのため、賃貸人としては、賃料増額請求という手段を利用してうまく交渉していくことも考えられます(但し、当然ながら実際に賃料が増額していることを示す何らかのエビデンスが必要です)。
上記事例はうまく成功しましたが、賃料増額請求を行うことで起こり得るリスクを弁護士に確認しながら、慎重に交渉を進めることが重要です。