先日、静岡市にて、地震や津波発生時の企業の法的責任について、裁判例を中心に講演しましたが、特に重要と思われる企業の「安全配慮義務」を説明します。
先日の講演で取り上げたのは、いずれも東日本大震災における裁判例で、「津波が発生したのに迅速かつ適切に避難をさせず、企業側に安全配慮義務違反が存在した」との原告の訴えに対する判決です。
企業の安全配慮義務違反については、「予見可能性(予見義務)」と、「結果回避可能性(結果回避義務)」という概念が重要になりますが、裁判例で特に焦点が当てられたのは「予見可能性」です。
「予見可能性」に関して、裁判所は、「各場面を時系列に沿って、区切って判断している」点が特徴的です。
例えば、地震発生直後は、津波について、各メディアから得られる情報は限定されていたため、どの程度の津波がどのタイミングで襲ってくるのかの予見可能性がなく、安全配慮義務違反の問題は生じないと判断されやすいです。
しかし、地震発生から時間が経過するにつれ、企業が得られる津波情報は増えていき、ある時点において「津波が襲ってくることを予見することができ、適切な避難措置をとるべきであった」と判断されやすくなります。
ご参考までに、裁判例の1つでは、地震発生から45分程度経過した時点において、上記の予見可能性を認めています。
また、上記裁判例は、2011年の東日本大震災のものという点に注意が必要です。
東日本大震災を契機に、災害時に、行政や各メディアが発する情報の質・量・頻度ともに飛躍的に増加しています。
そのため、今後は「津波が襲ってくることが予見でき、適切な避難措置をとるべきであった」と判断される「時間軸」が、東日本大震災時より早まる可能性が高いと考えておくべきでしょう。
以上の通り、企業としては、単なる形式的なマニュアルのみに頼るだけではなく、災害発生時には、「各場面において」適切に情報を収集した上で、「状況に応じた」適切な安全配慮義務を果たすことが求められるようになっています。
そのことによって被害の拡大を少しでも防ぐべく尽力することが重要と言えるでしょう。