先日、不動産オーナーである顧問先より、「賃借人と協議の結果、ようやく明渡しの合意ができそうですが、注意点はありますか。」との質問を受けました。
賃貸人において、建物の老朽化による建替え等の必要性から、賃借人に明渡しを求める必要が生じる場合があります。
賃貸借契約においては、賃借人は法的に保護されており、賃貸借期間が満了したとしても、正当な理由がなければ明渡しは認められません(借地借家法28条等)。
「正当な理由」についてはハードルが非常に高く、一般的な老朽化等の理由のみでは、訴訟提起したとしても明け渡しが認められなかったり、高額な立退料等が必要になる場合等が多いです。
上記のような背景事情の下、賃貸人において賃借人と協議を重ねた結果、ようやく明渡しの合意ができる場合があります。
しかし、賃借人によっては、合意書面を作成し明渡しの期日が到来しても実際には明け渡さない場合もあり、その場合、最終的には賃貸人より訴訟提起を行う必要があります。
裁判所において、賃借人が明渡しを認めている事実は「合意書面」という証拠資料によって認定されると思いますが、判決に至るには、想定よりも時間と費用が必要となる場合が多いです。
そこで、訴訟提起という手続をスキップできる手段として、「即決和解」という手段があります。
即決和解とは、正確には「訴え提起前の和解」(民事訴訟法275条)を指し、両者の合意の見込みがある場合において、裁判所で正式な和解を行う手続です。
即決和解の最大のメリットは、相手方が和解内容を履行を怠った場合に、訴訟提起をすることなく、直ちに強制執行を行うことができる点です。
但し、即決和解の申立ての際には、成立する見込みの和解案を添付する必要があり、その和解案によっては、後日、強制執行ができない可能性もありますので注意が必要です。
また、当事者の一方が期日に出頭しない場合、裁判所は和解が成立しないものとみなすことができ(民事訴訟法275条3項)、手続が終了してしまいますので、即決和解の申立時点で相手方との間で事実上の合意を形成しておく必要があります。
なお、一般的によく知られている方法として、公正証書を作成する方法がありますが(執行証書。民事執行法22条5号)、執行証書の内容は金銭の支払等を目的とするものに限られます。
そのため、建物の明渡し等については、執行証書を作成することができない点についても注意が必要です。
以上の通りですが、建物の明渡し等について少しでもご参考になりましたら幸いです。