先日、顧問先の社長より、「祖父が認知症となり、所有している不動産を次々に売却してしまっているようです。どうにかなりませんか。」との相談を受けました。
認知能力等が低下した高齢者を狙い、不動産会社等が所有物件を安く買い取ってしまうケースがあります。
一人暮らしの高齢者等の場合、売却の発覚が遅れることもあり、既に第三者に登記が移転済みの場合もありますし、最悪の場合、現に居住している自宅を売却してしまっている場合もあり得ます。
このような場合、詐欺や錯誤等で売買契約の取り消しを主張することも考えられますが、そもそも本人に意思能力がない可能性が高い点に注意が必要です。
その場合、まずは成年後見を申立て、自宅を売却してしまっている等の緊急性の高い場合には、同申立てに加えて、「審判前の保全処分」(家事事件手続法105条)を申し立てることも考えられます。
後見を申し立ててから開始するまでは、平均2か月程度の期間を要することが多く、同意書等を提出しない親族等がいる場合には即時抗告等による抵抗もあり得ますので、かなりの期間がかかる可能性があります。
そのため、後見が開始されるまでの間に、本人の財産が費消されたり、再び不利な契約を締結されるおそれがあります。
この場合、「審判前の保全処分」として、本人の「財産管理者」を選任等することが考えられます。
財産管理者の権限は、原則として保存・管理行為に限られ、訴訟提起等をする場合には、家庭裁判所の許可が必要となります(民法28条、家事事件手続法126条8項)。
上記の不動産の廉価売却のケースでは、本人の意思無能力(民法3条の2)や公序良俗(民法90条)による売買契約の無効を主張していくことになろうかと思います。
具体的には、これ以上所有権登記が移転しないように処分禁止の仮処分を申し立てた上で、不動産を取り戻すべく訴訟提起をすることになりそうです。
以上の通りですが、高齢化社会において今後増加すると思われるトラブルの一つについてご紹介させて頂きました。
審判前の保全処分