先日、不動産オーナー(賃貸人)である顧問先より、「ある賃借人から、下の階の飲食店からの悪臭による売上減少分について補償するように求められていますが、法的に認められるのでしょうか。」との質問を受けました。
複数の営業店舗が併存している賃貸物件では、テナント同士の関係において、他の賃借人からの騒音、悪臭、トラブル等に悩まされるケースがあります。
様々なケースがありますが、例えば、1階の飲食店からの臭いが原因で、2階の美容室店の業績が下がる等が挙げられます。
この場合、当該美容室店は1階の飲食店のみならず、賃貸人に対しても損害賠償請求等ができてしまうのでしょうか。
この点、賃貸人は、賃借人に対し契約と目的物の性質により定まった使用方法(用法)に従って、目的物を使用させる義務を負います(民法601条)。
賃借人は、賃貸人がそのような義務に違反したことによって損害を被れば、賃貸人に対して損害賠償請求をすることが可能となります(民法415条)。
店舗営業のために賃貸借契約を締結した場合、賃貸人には店舗営業に支障があれば、可能な限りこれを取り除かなければならない義務があります(東京地判平成19年5月10日)。
具体的には、婦人服販売店の営業を行う賃借人から、別の賃借人が飲食店Aを営業し悪臭を発生させていたことについて、賃貸人に対する損害賠償請求が認められた事例があります(東京地判平成15年1月27日)。
この裁判例では、下記のように判断されています。
・「悪臭発生の有無、悪臭の程度、時間、当該地域、発生する営業の種類、態様などと、悪臭による被害の態様、程度、損害の規模、被害者の営業等を総合して、賃借人として受忍すべき限度内の悪臭か否かの判断をすべきである。」
・「本件についてみると、三〇名の顧客が、○○からの魚の臭いについて、かなりの不快感を示しており、主たる商品である婦人服等に魚の臭いが付着し、悪臭によって被害を被った事実が認められ、他方、被告側において、悪臭に関する抜本的な解決策をとらなかったことが認められる。したがって、被告は、賃借人に目的物を使用収益せしめる義務を怠ったものであるから、原告に対して債務不履行責任を負うというべきである。」
ポイントは、賃貸人において、あらゆる臭いの発生を防止する義務があると判断されたものではなく、受忍限度を超える場合に初めて債務不履行責任が生じることを判示した点です。
もっとも、賃借人に損害が生じる場合にも、賃借人はできるだけ損害を回避し、又は減少させなければなりません。
営業利益相当の損害が発生するのを放置して、その損害の全てについての賠償を賃貸人に請求することは認められないことが多いです(最判平成21年1月19日参照)。
他の賃借人の侵害と賃貸人への法的請求