先日、顧問先より、「M&Aで会社を買おうと思っていますが、売主に全従業員の継続雇用を義務付けられますか。」と質問を受けました。

この点、中小企業のM&Aでは「人をそのまま引き受ける」ことをM&Aの目的の一つとしていることがあります。
しかし、実務的には、従業員全員の継続雇用を売主に条件付けることは難しい場合が多いです。

と言うのも、「M&A後の継続雇用」を売主に条件付けるためには、論理的前提として「売主は従業員に対して事前にM&Aの事実を開示」せざるを得なくなってしまいます。
しかし、従業員に事前に情報を開示してしまうと、不安感を与えることとなり、かえって退職者が出る等のリスクがあります。

加えて、従業員全員が買収後も継続して勤務するか否かは、その後の買い手の運営手腕に左右される側面もあります(もちろん憲法上の職業選択の自由もあります)。
そのため、M&A実行時点では、従業員が継続勤務の意向を示していたとしても、実際にその通りになるとは限らないからです。

以上のことから、契約実務上は、売主に全従業員の継続勤務を義務付けることは難しいため、現実的には以下のような対策が考えられています。

まず、一定割合の従業員が現に勤務を継続していることをクロージングの条件にすることです。
例えば、「譲渡日までに、対象会社の従業員のうち2割以上から、売主又は対象会社に対して、退職する旨の意思表示がなされていないこと」等の条項になります。

また、中小企業では、ある特定の役員や従業員が重要なキーマンである場合があります。
この場合、売主に対して、当該社員に対するM&Aの説明やその意向を確認することを義務付けることも考えられます。

M&Aと従業員の継続雇用
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