今回は、「不法行為の受忍限度」についてです。

先日、不動産オーナー経営学院(REIBS)において、不動産オーナーとして注意すべき点について、民法改正や相隣関係を中心に講義しました。

その講義の中から、相隣関係の問題でも特に重要と思われる「不法行為の受忍限度」の考え方について、今回は説明します。

例えば、「隣のビルの飲食店のダクトからの油汚れが所有するビルに付着して困っている」という事態は、不動産のオーナーであれば起こりうる事態でしょう。
その際、ビルオーナーとしては、相手方に対して、ダクト等の撤去請求や損害賠償請求をすることが考えられます。

ここで、「隣のビルが原因で、自分のビルが汚れてしまい、損害を被っているのだから、損害賠償請求は認められて当然」というのが、一般的な感覚といえるのではないでしょうか。

しかし、相隣関係については、判例法理により形成された「受忍限度論」という考え方が裁判上確立しており(騒音等のケースが多いです)、同「受忍限度論」によれば、上記一般的感覚とは異なる結論が生じうるため、十分な注意が必要です(最判平成6年3月24日等)。

すなわち、「受忍限度論」とは、「社会共同生活を営んでいる以上は、お互いにある程度までは受忍しなければならない範囲がある」という理論です。

具体的には、原則として、受忍限度を超えた権利侵害が生じていない限り、損害賠償請求も認められません。
そして、「受忍限度」を超えているか否かについては、侵害行為の態様や程度、被侵害利益の性質等、様々な事情を考慮した上で決定されると考えられています。

以上の通りですので、「隣の何かが原因で自分の所有するビルが損害を被っているし、当然損害賠償を請求できるだろう」と考えたとしても、法律上、正確な理解とは言えない可能性があります。

「受忍限度」を超えた損害が生じているかについては、上記の通り、様々な要素を考慮すべき複雑な問題となり得ますので、十分に専門家と協議を経る必要があると言えるでしょう。

不法行為の受忍限度
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