今回は、「懲戒処分と減給制限」についてです。
先日、顧問先より、「従業員に対する懲戒処分として減給を考えているのですが、注意点等はありますか?」との質問を受けました。
懲戒処分としての減給とは、労務遂行上の懈怠(遅刻、欠勤)や職場規律違反に対する制裁として、減給処分が行われることをいいます。
懲戒処分自体の有効性は別として、労働基準法では、懲戒処分としての減給における減給幅等について、下記のように制限されています。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない(労働基準法第91条)。
要約しますと、1回の減給額は、平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、複数回の減給処分を重ねたとしても、減給総額は月額賃金の10分の1を超えてはならないとするものです。
他方、「懲戒処分として」ではなく、成績不振等を理由として当該従業員の「職位を引き下げることに伴う減給」も考えられます。
このような「人事権行使による降格に伴う減給」については、懲戒処分ではないため、上記の労働基準法上の制限は原則として及ばないと一般的には考えられますが、十分な注意が必要です。
具体的には、職位が下がることが理由であるとはいえ、従業員の基本給を引き下げることになりますので、契約内容の変更として当該従業員の同意又は就業規則等における明確な根拠が必要です。
さらに、人事権の濫用(労働契約法3条5項)と評価される場合もありますので、この点についても注意が必要です。
以上の通り、基本給を引き下げる処分(減給処分)については、懲戒処分か人事権行使かを問わず、法的にはその対応に十分な注意が必要と言えます。