今回は、「賠償予定の禁止」についてです。
先日、顧問先より、「新規採用にあたって、一定期間内に早期退職した場合には違約金等を請求する旨の合意をすることは可能でしょうか。」との相談を受けました。
まず、労働基準法16条は、下記の通り、損害賠償額の予定を内容とする契約等を禁止しています。
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」
労働者の足止めや強制労働を事前に防止して、退職の自由を確保する趣旨になります。
上記16条に関連して、社員の留学費用を負担した会社において、当該社員が早期退職した場合に返金を求めた裁判例がありますので、紹介します。
東京地方裁判所平成9年5月26日は、結論として、留学金の返還を求める条項は、賠償予定の禁止(労基法16条)には該当しないと判断しました。
事案としては、「帰国後、一定期間を経ず、特別な理由なく会社を退職することとなった場合、会社が留学に際し支払った一切の費用を返却する」旨の条項の有効性が問題となったものです。
裁判所は、留学については本人の自由意思に任されており、留学費用については、上記返還特約付きの消費貸借契約が成立するとしました。
その上で、留学費用の返還は、労働契約の不履行によって生じるものではないから、賠償額の予定には当たらないと判断しました。
上記の通り、社員の利益にもなるような性質のものについては、結果として上記のような事例判断がされる可能性もあります。
しかし、原則としては、退職の自由を制限するような賠償予定については、法的に無効となる点に注意が必要です。
賠償予定の禁止