先日、顧問先の社長より、「相続について、特別受益の持戻し免除という制度があると聞いたのですが、どのような制度でしょうか。」との質問を受けました。
まず、共同相続人の中に、生前贈与を受けたり、遺贈を受けたりした人がいる場合、そのような「特別受益」を考慮せずに、相続財産を計算すると不公平になる可能性があります。
そこで、特別受益を相続分の前渡しとみて、計算上、当該受益を相続財産に持ち戻して相続分を計算することとされています(民法903条1項)。
但し、上記の持戻しについては、被相続人において、意思表示によって特別受益者の受益分の持戻しを免除することができます(民法903条3項)。
特別受益の持戻しが行われるのは、共同相続人間の不均衡を調整するとともに、それが被相続人の通常の意思に合致すると推測される点にあるため、被相続人において異なる意思がある場合には、それを優先すべきであるからです。
持戻し免除の意思表示は、生前贈与の場合には、特別な方式は要求されず、贈与と同時である必要はなく、明示黙示を問わずに行うことができます。
なお、遺贈の場合には、遺言によって持戻しの免除を行うことができます。
事業承継において、相続人の中で特別受益を主張する者が出た場合、遺産分割協議が難航し、事業を承継する者に株式や事業用財産を取得させることができない可能性もあります。
そのため、上記のような紛争が予想される場合には、特別受益を考慮した遺言を残しておくことや持戻し免除の意思表示を明確に行っておく必要があると言えます。
なお、経営の安定性を確保する意味で、資産管理会社を設立して、創業者の株式を移転しておくことも考えられます。
直接的には資産管理会社の所有となるので、相続が発生しても株主構成は原則として変動しない点がポイントの一つです。
IPOを目指す際には資産管理会社を検討した方がベターであるものの、創業者が保有する比率と資産管理会社が保有する比率を十分に検討することが重要といえそうです。